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はじめに
失語症状の発症後の長期経過を追跡し,その経時的変化を知ることは,失語症のリハビリテーションを展開するうえで不可欠なことである.なかでも,失語症状がどこまで回復するのかということは非常に重要なテーマである.失語症の回復に影響を与える要因,予後に重要な因子についてはさまざまな報告がある.まず疾患要因として原因疾患,病巣の位置1-3)や大きさ4-5),初期の失語症の重症度6-12),失語タイプ9)などが挙げられる.次に生物学的要因として利き手,発症年齢10),性別13,14),言語機能にかかわる大脳半球側性化の個人差などがある.そして社会的要因として言語訓練の有無15),教育年数16,17),社会環境など多様な因子が関与すると考えられている.
これまでわれわれは,失語症例に対しおおむね1年以上の比較的長期間にわたり訓練を実施し,その回復経過について検討し報告してきた18-27).これまでの知見から,適切な予後予測に基づき,十分な期間訓練を実施することが肝要であること,機能回復には発症年齢の関与が大きく,40歳未満群と40歳以降群では到達レベルに有意差があること,20歳台では言語領野ほぼ全域の損傷にもかかわらず軽度の失語にまで達する例が少なくないこと,これに対し高齢者では重度の失語症にとどまる場合が多いが回復症例も存在するため,広範病巣例や重度失語症であっても機能回復訓練は安易にあきらめるべきではなく,少なくとも2年以上の長期にわたって回復を試みる努力が重要かつ必要であること,などを提唱してきた.しかし,「どのような状況の因子をもちあわせた失語症例であれば,どの程度の回復を示す可能性があるのか」といった予後予測については,いくつかの報告28-30)が散見されるがまだ結論は得られておらず,われわれも目下検討中である.
本報告では,予後の因子の中でも「脳」に着目し,病巣の位置や大きさが失語症例の標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia;SLTA)の成績にどのように関係しているのか,予後に影響が強いのはどの部位かなどを明らかにするため,失語症例の長期経過と脳画像との関連を検討した自験データ31,32)を中心に示す.特に,大枠の脳部位からある程度の予後を見据えることの重要性と,いわゆる言語野と呼ばれる領域からどの脳部位への伸展が予後に影響が強いかについて考えてみたい.
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