Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
湯川秀樹の『科学者の創造性』—天才と内的矛盾
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.574
発行日 2018年6月10日
Published Date 2018/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201345
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昭和39年に発表された湯川秀樹の『科学者の創造性』(『湯川秀樹自選集第4巻』,朝日新聞社)には,科学者の創造的な活動には内的矛盾が必要だとする,ある種の病跡学的な見解が示されている.
この講演の中で,湯川は,「学問することそれ自身が執念」という立場から,科学者として成功するには,「執念深いということは確かに必要条件だ」と語る.そのうえで湯川は,人はなぜそういう執念をもつのかについて,「その人自身が自分自身のなかに非常に深刻な,内部的な矛盾をもっているということと非常に関係がある」という見解を示す.聖人と呼ばれるような人は悟りを開いていて執念などもっていないが,天才と呼ばれて自分の仕事に打ち込んでいるような人は,「まだ執念が残っている」.それは,少し悪い言葉で言えば「我執」と呼ばれるようなものだが,湯川は,「人間があまり立派になりますと,学問や芸術はできなくなるのではないか」,「天才に準ずるような人は,自分のなかに,いつまでも深刻な矛盾を残している」と,天才と内的矛盾との関係を強調するのである.
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