巻頭言
科学者と創造性
横井 晋
1
1前・横浜市大精神科
pp.916-917
発行日 1987年9月15日
Published Date 1987/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204381
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創造性といわれるものは芸術において最も顕著に現われる。ゲーテが詩と真実の中で「野を行き森を行き,わが歌を笛に吹きてかくてひねもす暮しぬ」と書いた時,外部と内部の自然が呼応して詩が生れ,これはいはば自我意識のない宇宙とのリズムの調和の中から出現している。この第1の創造性に対し第2のものは,企図の下に行われるもので,その企図は内及び外の自然を研究し,それを模倣して自然に近いものを創り出す行為である。それは松の事は松に習え,造化に従い造化に還れと述べた芭蕉の俳句の態度と一致する。
人間には動物とも共通する模倣衝動があって,ある印象が引金となって真似をする,例えば小さな子は兄や姉の行為を真似する。しかし人は動物と違ってそれを変形し独特なものにするという精神的強調が強いのである。この自然を模倣しようとする過程は,創作を目指す意志の支配に意志的に服している姿である。しかしこれは一般の意志行為,例えば政治家,経営者,記録を目ざす走者等の意志とは全く異なるもので,芸術家の場合は作品をめざす意志に支配されつつ,同時にこれを抹消しなければならぬという矛盾を切り抜けなければならない。
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