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はじめに
失語症における言語機能の問題への対応が本格的に行われるようになったのは20世紀半ばからである.脳損傷により障害された大脳機能が回復する場合があると多くの研究者により示されたことが背景にある.機能回復に関する理論的背景については,局在論的な立場からの再構成あるいは再編成という仮説と,全体論的な立場からの再建という仮説とにまとめられる.局在論的な考えでは,損傷された機能は以前と同じ形で取り戻されるのではなく,まったく別の形として出現するとされる.一方,全体論的な考えでは,抑制の解除という考えがあり,損傷を受ける前の状態に機能が再構築されるということになる.失語症の治療的介入も言語をはじめとする機能が消失したと考えるのか,それともアクセスや回収などの機能が低下したと考えるのか,その立場の違い,また立脚する理論的枠組みが局在論か全体論か,など,さまざまな背景によって生まれてきている.
1970年代以降,失読を対象とした研究から認知神経心理学が急速に発展した.情報処理過程のモデルに基づいて失語症状を分析し,言語処理過程のいずれの部分の障害であるか同定し,保存されている機能についても評価し,そこから治療仮説を立て訓練を実施するというアプローチである.単一光子放射断層撮影(single photon emission computed tomography;SPECT)や核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging;MRI)などを用いた研究による知見から,人間の大脳が損傷を受けた場合の回復の状況についても解明が進んでいる.さらに厳密な個別の失語症患者の症状の解析に基づくアプローチが提案されるようになった.
現在行われている失語症に対する治療的介入,言語聴覚療法は,その多くが症状と病巣との関係を前提に,認知神経心理学的な考え方で,症状の基底にある発症メカニズムに基づいて行われる.失語症に対する治療的介入では,1つの視点,立場に偏ることなく,症状の全体を詳細に記述し,整理し,さらにその背景にある障害の基盤を説明できる処理モデルを考えることが重要となる.
2001年以降,世界保健機関(World Health Organization;WHO)の国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)が広まり,障害をより中立的に捉えるという考え方が定着してきている.これは失語症の言語聴覚療法にも影響を及ぼし,脳損傷の結果として生じた機能障害を対象としたものだけでなく,生活場面における言語の使用に関するもの,社会参加を促す働きかけまで,より広い範囲を対象とするようになっている.
失語症への治療的介入としては,機能障害に対するアプローチ,活動や参加という生活を視野に入れたアプローチなどさまざまなものがある.治療的介入の目標は最終的には包括的な実生活の改善にあるが,機能障害が活動や参加という生活の領域にどのように影響するのかという観点も含めた対応をするためには,的確な機能障害レベルの分析と,それに適合した治療デザインが求められる.機能障害レベルの改善を目指す臨床や研究を継続して進めていく努力が求められている.
本稿ではさまざまな失語症に対する治療的介入のなかから刺激-促通法,遮断除去法,機能再編成法,Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness(PACE),Melodic Intonation Therapy(MIT),意味セラピー,Psycholinguistic Assessment of Language Processing in Aphasia(PALPA),Sophia Analysis of Language in Aphasia(SALA)に基づく治療,Constraint-Induced Aphasia Treatment(CIAT)を取り上げる.
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