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はじめに
失語症は,失行,失認などと並ぶ代表的な高次脳機能障害の一つである.近年,若年者における閉鎖性頭部外傷後の,記憶障害や遂行機能障害を中心とするさまざまな認知機能障害が「高次脳機能障害」の名称で注目を集めているが,上記の障害すべてが高次脳機能障害である.この点を最初に明記しておきたい.
脳卒中は,失語症の代表的な原因疾患の一つである.後述するように,病巣の広がりと部位によって,重症度とタイプがさまざまであるという点では,失語症も運動機能障害や感覚障害などのいわゆる一次性の大脳機能障害と同様である.
しかし,機能回復という点に関して,高次脳機能障害の一つである失語症は,一次性の大脳機能障害とはかなり様相を異にする.「発症後3か月以内からの6か月間」という回復期リハビリテーション病棟の入院基準は,おそらく運動麻痺を代表とする一次性の大脳機能障害の回復期を念頭に置いたものと推察されるが,回復期に対するこの考え方は,失語症者にとっては恩恵の少ないものである.
理由は2つある.
一つは,回復期のはじまりという点である.失語症の場合,原因疾患の違い(虚血性脳卒中か,出血性脳卒中かなど)や,手術の有無および術式などにより,集中的な機能回復訓練の適応となるまでの期間はばらつきが大きく,発症から3か月の時点では,意識障害が遷延している場合も少なくない.このような時期の失語症患者には,積極的な訓練による機能回復は望めず,また行うべきではない.
もう一つは,回復期がいつまで続くかという点である.一般に失語症の機能回復は,一次性の大脳機能障害と異なり,6か月をはるかに越え,長期にわたる.特に発症時年齢の要因は重要であり,40歳未満発症例では,発症初期の失語症がきわめて重度であっても少なくとも3年以上の徹底した機能訓練によって何らかの形で職場に復帰できる水準まで回復する場合が少なくない.また,40歳以降発症であっても病巣が比較的限局しているケースではかなりの改善が見込める1-6).
以上のべたように,脳卒中の機能障害として失語症を考える場合には,機能回復という点において,高次脳機能障害特有の経過をたどることを理解することが肝要であり,その特質に合ったリハビリテーションサービスの展開を考えることが不可欠である.
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