Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
坂口安吾の『夜長姫と耳男』—障害あるがゆえの傑作
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.192
発行日 2018年2月10日
Published Date 2018/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201231
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昭和27年に坂口安吾が発表した『夜長姫と耳男』(『坂口安吾全集12』,筑摩書房)は,身体的な障害を負わされた名匠が,その怨念ゆえに優れた作品を彫り上げるという,手塚治虫の『火の鳥』に影響を与えたと思われる作品である.
この物語の主人公・耳男は,夜長長者の依頼を受け,他の匠たちと競う形で,夜長姫の持仏を作ることになる.しかし,彼の耳を見た夜長長者が,「なるほど,大きな耳だ」,「大耳は下へ垂れがちなものだが,この耳は上へ立ち,頭よりも高くのびている.兎の耳のようだ.しかし,顔相は,馬だな」と言ったため,耳男の頭には血が逆巻き,すべての血が上体に上って,汗がしたたった.「オレは人々に耳のことを言われた時ほど逆上し,混乱することはない.いかな勇気も決心も,この混乱をふせぐことができないのだ」.
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