Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
芥川龍之介の『沼地』―狂気の画家が残した傑作
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.180
発行日 2014年2月10日
Published Date 2014/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110413
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芥川龍之介が大正8年に発表した『沼地』は,主人公が,ある展覧会で小さな油絵を発見する場面で始まる.その絵の題は「沼地」といって,それを描いた画家は有名人でも何でもなく,絵も濁った水と湿った土と繁茂する草木を描いただけのものだった.しかも,その絵は,貧弱な額縁に入れられて,採光の悪い部屋の片隅にかかっていたため,一般の見物客からは一顧だにされていなかったのである.
しかし,主人公は,「その画の中に恐ろしい力が潜んでいる」ことに,気づいた.彼は,この小さな油絵の中に,「鋭く自然をつかもうとしている,いたましい芸術家の姿」を見出し,「あらゆるすぐれた芸術品から受けるように,この黄いろい沼地の草木からも恍惚たる悲壮の感激を受けた」のである.
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