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2007年に神奈川県立保健福祉大学に赴任して今年で10年目になります.「あっという間」が率直な感想ですが,そもそも私がリハビリテーション医学を志したのは,人間の生活に多面的に影響する疾病や外傷後の「障がい学」を自らのspecialityとしたかったからです,と書くと「いかにも」という雰囲気になりますが,しかしこれは本当のことです.医学部5,6年生のころの講義ではどの科も最先端のresearchの話で,poorな知識の私にとっては「チンプン? カンプン?」の連続→「おやすみなさい」への直行便,となっていました(臨床医学の基本的な内容でも初見なら「これはわかっていることだから」と講義をカッとばさないで〜,と今さらながらに言いたい).浅学非才の身から出た錆なのか,既存の医学にはあまり関心をもてず,さらに白い巨塔的な教授回診は大嫌いときたものだから,卒業後の科選びに至っては,他人より一歩も二歩も後れをとっておりました.そんななか,当時まだ整形外科学における臨床実習のたった1コマであったリハビリテーションの実習に(ちなみにリハビリテーションの講義も整形外科の莫大なコマの中の,これまた1コマに過ぎず),伊豆にあった大学附属の月が瀬リハビリテーションセンターに行ったときのことです.狩野川の音と山々のコントラストに癒されていると,いきなり玄関で本院の内科実習で担当した脳卒中片麻痺・失語症の患者さんが何と歩いていらして,「先生!(私まだ全然先生じゃないのに恥ずかしい)」と話し掛けていただいたり,リハビリテーション室で温熱療法のパラフィン浴に自ら手指を浸して「ムム〜,これはリウマチの患者さんには効くな」とメチャクチャ感動したり,たかだか半日の実習だったけれど,垣間見た「障がいを治療する」リハビリテーションの世界は,学生の私にとって,どれもこれも驚きを通り越した,信じられない,新鮮な世界であったことを記憶しています.加えて医者一人だけではなく,多職種にわたるチームアプローチが核となるリハビリテーション医療の現場を目の当たりにして,もともと体育会人間であった私は,皆で創り上げる楽しさと力強さに,何だか訳のわからない嬉しさを発見して,帰途に着きました.「もうここしかない」と思い,その翌日に大学リハビリテーションセンターのBOSSに会いに行くと,初対面なのに「おっす! ご苦労さんです.今日から仲間だから」といきなり満面の笑みを浮かべ強く握手してその後も私の手をキツク離さなかったこの先生は……(機会があれば「つづく」です).
こうしてこのBOSSに師事し専門医として一人立ちしたわけですが,初めて行った非常勤のリハビリテーション室では,1人の患者さんを巡って多職種同士がおのおのまったく異なるゴールを想定してリハビリテーションをしていたり,一方で別の病院では私のつたない処方でも素晴らしい仕事をしてくださるリハビリテーションスタッフの方々に遭遇するたびに,「もっとリハビリテーション医がリハビリテーション全体の学術を深めたうえで,そのリハビリテーション医から発信した障害学や疾病学のティーチングを行うことで,おのおののスタッフが相互の考え方を理解し,結果としてチーム医療を円滑に進めることが可能になるのではないか」とずっと真剣に思い続け,今の私に至った次第です.大学では学生には「医学はどの職種にも平等」をモットーに医学部に匹敵する実学的内容を教え,また単に時代の流れに追従するのではなく,多様性を認め相互の考え方を享受して,調和を創造し連係していく,文字通り「臨床に貢献できる人材」を育成しています.自分自身もリハビリテーション領域の知識・技術を極めつつある?? 今日このごろですが,この私の地味な仕事が臨床現場で多職種間に吹く心地よい風となり,実地リハビリテーション医療におけるスタッフ間のbridgingに貢献できればと思っています.そしてリハビリテーション医の先生方の視点が少しでも多職種教育のフィールドに向いていただければ幸いです.なぜなら出された処方を活かす術は,いろいろな意味で「スタッフのみぞ知る」ですから.
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