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はじめに
2006年に国連総会において採択され,昨年わが国が批准した,「障害者の権利に関する条約(Convention on the Right of Persons with DisAbilities)1)」は,障害のあるすべての人によるすべての人権および基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し,保護しおよび確保すること,並びに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とした国際条約である.この条約は,50条の条文から構成されているが,そのなかにはリハビリテーション工学関連の用語が21か所も記載されている.例えば,ユニバーサルデザイン,支援機器,情報通信システムなどである.このことからもわかるように,リハビリテーション工学や福祉用具は障害のある方々の生活に,深くかかわっており,その認識は国際社会で当たり前となっている.
一方,本邦における福祉用具開発の1つの契機として,1993年に施行された,「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」2)を挙げることができる.この法律に基づき,新エネルギー・産業技術総合研究機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization;NEDO)およびテクノエイド協会にて,福祉用具の開発助成事業がスタートした.当初併せて年間4億円程度の予算規模であり,最高では年間6億円程度(1999年度)まで増加したが,その後予算は減少し,現状ではNEDOのみで助成が行われ,その予算規模は1億円程度となっている.
福祉用具の市場規模は,日本福祉用具・生活支援用具協会の調べによると,図1のようになっている3).福祉用具法が施行された1993年度以降,介護保険が始まる2000年度までは順調に拡大傾向がみられたが,その後1兆2,000億円程度で横ばいになっている.介護保険で軽度者の利用制限がスタートした2006年度を契機にいったん落ち込みをみせたが,2009年度以降,やや回復がみられている.大まかにみると,ここ10年あまり,ほぼ横ばいといってよい.すなわち,市場はほぼ飽和しているとみて取れる.
ここ数年で注目を浴びているのが,ロボット介護機器である.これには,年間数十億円の予算が投入され,ロボット技術を活用した福祉用具の開発,実用化,導入促進にかかわるプログラムが実施されている.かかわっている企業は50社を超え,新たな技術開発が積極的に行われ,市場拡大に期待がもたれている.一方,厚生労働省では,障害者自立支援機器等開発促進事業を実施しており,市場規模が小さい福祉用具の開発促進を図っている.
本稿では,上記の動向について概説するとともに,日本全体でこれらの課題に取り組むためのプラットフォーム構築に向けた取り組みと,利用現場を重視した技術開発(フィールド・ベースト・イノベーション)について紹介することで,当該分野の現状と課題およびその解決策について解説することとする.
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