Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
クレッチマーの『天才人』―病跡学と優生学
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1064
発行日 2013年11月10日
Published Date 2013/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110313
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1929年に発表されたクレッチマーの『天才人』(内村祐之訳,岩波書店)は,近代病跡学を代表する著作の一つであるが,そこには,その直後にナチスによって展開される優生学的な施策と対峙するような記載がみられる.
たとえば,第1部第4章「天賦の陶冶」では,純粋な人種は天才を産み出しにくいとして,「純粋人種の学説,即ち才能に恵まれた人種例えば北方人種の如きが,それ自身天才的才賦の保持者であるという意見は,多くの歴史的事実,或は地理的統計的事実と全く相反している」と語る.クレッチマーは,北西部ドイツの比較的純粋な北方人種からなる地域や,他種族と交配のなかった古代ギリシアのスパルタを例に挙げて,「何等交配されず,永い間同種族の内に止まった人種或は民族は,彼等が屡々甚だ有能な民であるにも係らず,天才を生む事が驚く程少ない」と,天才の出現には,人種的な純粋性はむしろマイナスに作用すると指摘するのである.
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