Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
三島由紀夫の『金閣寺』―世界没落願望
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.872
発行日 2001年9月10日
Published Date 2001/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109585
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昭和31年に発表された三島由紀夫の『金閣寺』(新潮文庫)には,主人公の世界没落願望とでも呼ぶべき暗い情念が描かれている.
「体も弱く,駈足をしても鉄棒をやっても人に負ける上に,生来の吃りが,ますます私を引込思案にした」という『金閣寺』の主人公は,中学生の頃,有為子という娘に痴漢まがいの行為をして,彼女から馬鹿にされる.その時この主人公は,有為子の死を願って,「証人さえいなかったら,地上から恥は根絶されるであろう」と思い,「他人がみんな滅びなければならぬ.私が本当に太陽へ顔を向けられるためには,世界が滅びなければならぬ」と,自分に恥をかかせた他者と世界の滅亡を願うのである.
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