文学
純粋な男性—三島由紀夫の文学
平山 城児
1
1立教大学文学部
pp.74-75
発行日 1964年4月1日
Published Date 1964/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912223
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先日ちょっと用事があったので,虎の門から国会議事堂のあたりを歩いた。そして,ぼくらしくもないが,安保のデモのことを思いだした。あの時,ぼくはまだ学生だったけれど,一度もデモには参加しなかった。ぼくにとって政治は,いつも別世界の出来事だからね。しかし,ぼくは今でも,はっきりと思い出す文章がある。それは,当時のデモについて書いた三島の文章だ。彼は,虎の門の近くのホテルの部屋の中から,安保のデモを,実に冷やかに眺めた文章を書いていた。何をどんな風に書いたかも,もう忘れてしまったけれど,左翼でもないぼくが,ひどく三島に反発を感じたのは事実だ。《ブルジョワの高見の見物》—そんな気がした。このぼくがだよ!三島には,いつもそういう傾向がある。しかし,作品は別だ。最近,『剣』という単行本をよんだが,小にくらしいほどうまい。しかし,冷たい。しかし,達者だ。いろいろ言いたいこともあるけれどそれはまたのことにする。では。
こんな手紙をもらった。古くからの私の友人で,めったには逢わないが,気がむくと,よくこんな便りを寄こすのである。
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