新刊紹介
—和田芳惠著—「名作のできるまで」/—三島由紀夫著—「鹿鳴館」
松本 一郎
pp.131-133
発行日 1957年5月10日
Published Date 1957/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201422
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今年の芸術院賞の文学部門は,「流れる」の幸田文と,「一葉の日記」の和田芳恵との2人が受賞した.幸田文の名はその作品が成瀬監督によつて映画化されたので,かなり多くの人が知つているはずだが,和田芳恵という作家を知つている人は,わりあい少いのではないだろうか.明治の閨秀作家樋口一葉の研究家であり,それに芳恵という女のような名をもつているので,この人は女でないかと間違えられるむきもある.明治40年生れ,中央大学を卒業した,立派な灰髪の男性である.そして,もともとは,小説家であつた.その小説集に「作家達」,「十和田湖」「離愁記」などがある.がむしろ,樋口一葉のすぐれた研究家として文壇,論壇,学界などで知られている.「一葉の和田芳恵」とか,「樋口芳恵」とか,「和田一葉」とか云われているくらいだ.
今までに発表されていなかつた一葉に関しての未開拓の部面,たとえば,その家系とか,生い立ちとか,人となりとか萩の舎歌塾での対人関係とか,或いは文学界一派とのつながりとかを,この人は実地に踏査し,いくつかの煩わしい,古文書にちかいものをしらべあげた上で,はじめて明かにしたのである.
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