Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
漱石の『行人』―苦悩する者としての精神障害者
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.982
発行日 2000年10月10日
Published Date 2000/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109341
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漱石が大正2年に発表した『行人』は,一郎という「神経衰弱」の大学教師を主人公にした小説であるが,そこには精神障害者を苦悩する者として捉える視点が示されている.
『行人』の一郎は,具体的な根拠もないのに妻と弟の関係を嫉妬したり,自分の腕をつねった痛みが妹にも伝わるのではないかという実験をするなど,家人からも「気味が悪い」と,発狂を懸念されるような人間である.そんな一郎を見かねた家人は,友人のHさんと旅行に出かけさせるのだが,旅先で一郎と行動をともにしたHさんは,家族に当てた手紙の中で,次のような意見を述べている.
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