Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目漱石の『坊っちゃん』―言外の意味理解の障害
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.998
発行日 2004年10月10日
Published Date 2004/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100654
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夏目漱石の『坊っちゃん』(明治39年)の主人公は,四国の中学教師になってわずか1か月で東京に帰るという,ある意味での不適応者であるが,彼が不適応たらざるを得ない理由の一つに,他人の言葉を文字通りの意味でしか解釈できないという特性がある.
例えば坊っちゃんは,着任早々,校長から,生徒の模範になれとか,一校の師表と仰がれなくてはいかんといった要求をされる.しかしそれを聞いた坊っちゃんは,「この様子じゃめったに口もきけない」と思い込み,「とうていあなたのおっしゃるとおりにゃ,できません,この辞令は返します」と答えるのである.驚いた校長は,「今のはただ希望である,あなたが希望どおりできないのはよく知っているから心配しなくってもいい」と取りなすのだが,この場面で印象的なのは,建前の綺麗事ばかり言いつのる校長の姿とともに,言葉に対して文字通りの意味でしか反応できない坊っちゃんという23歳の青年の特性である.
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