Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
漱石のユーモア―妄想体験の滑稽化
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.598
発行日 2000年6月10日
Published Date 2000/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109258
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昨今,精神障害者のリハビリテーションで話題を集めているのが,『ベテルの家』の試みである.北海道の浦河にあるこの共同作業所では,年一回幻覚妄想大会なるものを開いて,精神障害者が自分自身の異常体験を語りあうという,幻覚や妄想を笑い飛ばすような試みをしているのである.だが,この『ベテルの家』と似たような試みを,自らの創作の中で行ったと思われる作家がいる.夏目漱石である.漱石が明治38年から39年にかけて発表した『吾輩は猫である』(以下,『猫』)には,漱石の分身的な主人公である中学教師苦沙弥の幻覚や妄想を思わせる体験が描かれているが,それを語る猫の語り口が,苦沙弥の異常体験を笑い飛ばす類のものなのである.
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