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はじめに
障害児を対象とする領域では,医学の進歩に伴い重度から軽度あるいは境界領域の障害を持つ子どもへと関心が拡がってきている.
MBD(微細脳障害)の概念が定着したのは1950年に入ってからである3).MBDの持つ基本的な症状は,①認知能力の偏り,②多動・注意集中障害,不器用などであった.このMBDを主とする認知能力の偏りからくる学習困難が学習障害,学習能力障害の用語で呼ばれている.
学習は発達過程にある子どもにとって常に変わらぬ課題であるが,ここで問題とする学習障害は,従来,対象とされてきた脳障害,精神遅滞の症状としての学習障害とは異なる学習上の困難で,learning disabilitiesいわゆるLDの用語で呼ばれるものである2,4).
学習を可能にする条件としては,認知能力の発達が正常範囲にあること,感覚器官(視・聴覚)に障害がない,運動機能に大きな障害がない,情緒発達に障害がない,また子ども達をとりまく環境に不利な点がないことなどがあげられる.LDと呼ばれる子ども達は,これらの条件を満たしながら,なお学習に問題を持つ子ども達である.
ここでいう学習とは,読み,書き,算数のみでなく,これらのアカデミック・スキルに影響を与える学習に至る過程をも含めるものであって,聴覚性言語(話し言葉)ならびに非言語的な経験の歪みにも及ぶものである.
したがって,学校での学習への適応を対象として考える従来の学習障害とは異なった概念なので,これを「学習障害」の訳語にするのは,本来の概念を混乱させるものといえよう.筆者は学習能力障害を用いてきたが,LDの用語が定着してきている昨今は,概念を混乱させないために,LDをそのまま用いることにしている2).
LDの症状は発達により変化し,統合されていくものであり,既存の障害の定義には当てはまらない.その意味では障害ではなく学習困難が適当であるとの考え方もある.LDに関連する領域は教育,心理,医学,福祉と広く,その定義,用語もコンセンサスを得ないまま学習障害の用語が一人歩きをしているのが現状である.教育はその症状に,医学はその原因に,神経心理学はその学習過程の特異性に,とアプローチも異なり,したがって概念,定義について各領域で差があるが,既存の障害とは異なる対象について対応しようとする点では一致している1,8-10).
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