Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
リハビリテーション医療では機能的状態の回復,残存機能の最大限の活用を目標とする.Grangerは障害モデルに従って回復過程への介入を3つに分け,臓器レベルには医学的・機能回復的治療を,個人レベルには補装具の適用や物理的・社会的障壁の軽減を,社会レベルには支援サービス・社会政策の変更,を行うべきであるとしている1,2).DeLisaは介入の手段をさらに細分化し,慢性疾患への治療戦略として,1)二次的能力低下の予防あるいは矯正,2)病的状態のないシステムの機能強化,3)病的状態のシステムの機能強化,4)機能向上のための適応装置の利用,5)社会的,職業的環境の調整,6)患者のパフォーマンス向上のための心理的技術と患者教育,を挙げている2,3).
このように残存機能の活用を目的とした手段はさまざまである.このなかでGrangerの指摘した臓器レベルの障害に対する医学的,機能回復的治療はもっとも基本的なものである.これはDeLisaの区分の1)~3)に相当し,身体機能の改善・維持を通して残存機能の活用を図る領域である.この治療技術は身体機能障害が生じた際に最初に適用され,かつどの時期においても継続されるものである.
身体機能の改善・維持の主な手段の1つは運動療法であるが,その効果発現機序,適用などに対する考え方は変遷している.神経筋促通手技,神経発達的アプローチ,など特有の神経生理学的理論と,それに基づく治療手技が臨床的に多用されてきたが,現在は種々の疑問が投げかけられている4).理論的には,神経生理学の発展に伴って治療効果を説明する理論の不十分さが問題となり,臨床的には他の手技と治療効果に差がないとの指摘がでている4,5).
この分野の最近の傾向は,第1に運動療法の効果に関する客観的な評価が必要という指摘がよく見られることである.これまで運動療法の効果に関する評価が不十分だったり,効果の分析の仕方が不完全なことがしばしばであった4).近年,運動療法の効果をより客観的に測定する試みが報告されている6-8).第2に運動療法およびリハビリテーション医療を予防医学の視点から見直す動きである.疾病予防のために1次,2次,3次予防にどう貢献するかの議論である9,10).身体障害者の疾病・障害増悪の予防や高血圧などの疾患への運動療法の効果などが注目されている10,11).第3に運動療法を効果的に進めるための種々の技術の併用である.治療的電気刺激療法や機能的電気刺激療法などの電気刺激療法やさまざまな薬理学的手法の併用により治療効果が高まっていることが報告されている12-14).
それぞれ人口の高齢化,疾病構造の変化,治療技術の進歩などを背景に起こってきた現象と思われるが,なかでも種々の技術の併用は運動療法の効果に直接影響し,運動療法の身体機能への効果を変化させうるものである.とくに薬物療法は今後の運動療法の分野で大きく議論となる問題である.ここでは身体障害に対する薬物療法,とくに神経疾患に対する薬物療法について概説し,運動療法とともに残存機能の活用に薬物療法がどのように貢献するかを述べることとする.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.