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はじめに
近年の医学の進歩により,頸髄損傷のような重傷者をも延命させることが可能になった.しかしながら延命はできても重度の四肢麻痺を残存する場合が多く,入浴,食事,排泄といった日常の基本的な活動において介護者の手を借りなければ生活できない.
このような重度の障害者に対する介護は大変な重労働であり,社会問題としても顕在化してきた.これらを解決するために,さまざまな介護支援機器,器具が開発,使用され始めているが,その一方で障害者自身が介護者に依存した生活から脱却し,自分自身の意志と判断で行動したいと願う場合が多いのも事実である.こうした障害者の要望に応え,日常生活のなかで可能な限り障害者の自立を支援するための機器の必要性も高まっている.その一つとして登場したのが環境制御装置(Environmental Control System,以下ECS)である1,2)).
ECSとはテレビなどの家電製品やベッド,ナースコール,照明の点滅,カーテンの開閉などの機器を包括的に管理,運用するための装置であり,障害者とそれらの機器の間に介在して患者の意志を仲介する役割を果たす.
ECSは通常,入力部,表示部,制御部より構成されている.入力部はいわゆるスイッチであり,障害者の残存機能に応じて呼吸気や皮膚接触に反応するセンサーが用いられている.ECSの制御は全てスイッチのON/OFFによって行われる.制御できる機器や機能は表示部に明示されており,スイッチの操作に対応してそれらの機能が順次選択される(本稿ではこの動作を「スキャン」と呼ぶ).選択された機能は発光ダイオードの点灯などで示される.目的の機能が選択された時点で,再度スイッチを操作してその機能を選択すると,制御部より信号が発せられ,接続したリモートコントローラなどが作動する.これによりテレビのチャンネル変更やベッドの上下を行うことができる.
ECSを用いることにより,介護者を必要とせずに自らの意志だけで周囲の環境への働きかけが可能となる.これは患者のQOL改善に大きな役割を果たすものであり,またECSを操作できるという自信が他の活動に対しての意欲を高揚させる場合も少なくない3).
本稿では四肢による入力が不可能であるが,発話能力は残存している障害者を対象として,入力部にニューラルネットワーク(以下,NN)を単語音声認識手段として用いるECSを考える4,5).
NNを音声認識に用いる技術はすでに提案されているが6,7),これをECSに応用した例はない.NNを用いたECSは従来のECSより操作所要時間が短くなるので,ECSに関して重度障害者が直面している問題を軽減でき,また,音声入力に伴う誤差も実用上問題がない範囲であると考えた.これらを検証するためにNNを用いたECSを試作し,以下の実験を行って,この装置の有用性が証明できたので報告する.
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