Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
太宰治の『浦島さん』―援助者の心理(第2報)
高橋 正雄
1
1東京大学医学部精神衛生・看護学教室
pp.705
発行日 1994年8月10日
Published Date 1994/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107676
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今年1月の本欄で,『伊豆の踊子』における主人公の善意に潜む無自覚の優越感について論じたが(22巻1号),太宰治には,こうした援助者の心理を批判的に描いた作品がある.『お伽草紙』所収の「浦島さん」である.この,『浦島太郎』をパロディー化した作品では,浦島という総領の甚六的な知識人が揶喩的に描かれていて,太宰特有の知識人批判が展開されるのだが,中でも注目されるのは,亀を助けた浦島の心理に関する洞察である.
浦島に助けられた亀は,彼を龍宮城に誘うべく,再び海辺に姿を見せる.ところが浦島は,素直に亀の背中に跨がろうとせず,「せっかく私が助けてやったのに,また子供たちに捕まったら何にもならぬ」と分別くさく亀を窘め,亀からの恩返しの申し出に対しても「私と対等の付合いをしようとたくらんでいるらしい」と警戒する.
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