Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
太宰治の『東京だより』—障害者文学としての太宰文学
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.342
発行日 2023年3月10日
Published Date 2023/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202785
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昭和19年に太宰治が発表した『東京だより』(『太宰治全集6』,筑摩書房)は,「東京は,いま,働く少女でいっぱいです.朝夕,工場の行き帰り,少女たちは二列縦隊に並んで産業戦士の歌を合唱しながら東京の街を行進します」という一節で始まるように,戦時下,勤労動員されて工場で働く少女にかかわる短編である.
主人公が知り合いの画家が徴用されている工場を訪ねた時のことである.事務所に入ると,10人ばかりの少女がひっそりと事務をとっていた.「ひとりひとり違った心の表情も認められず,一様にうつむいてせっせと事務を執っているだけ」で,「どの子の顔にも,これという異なった印象は無く,羽根の色の同じな蝶々がひっそり並んで花の枝にとまっているような感じ」である.
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