Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
太宰治の『舌切雀』―引きこもりの翁
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.1078
発行日 2005年11月10日
Published Date 2005/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100220
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昭和20年に発表された太宰治の『お伽草紙』(新潮文庫)に収められている『舌切雀』は,昨今話題になっているニートや引きこもり問題を先取りしたような作品である.
この作品の主人公であるお爺さんは,「日本で一ばん駄目な男」と言われるように,「世間人としての義務を何一つ果たしていない」男だった.彼はまだ40歳にもならないというのに,「いつも力無い咳をして,そうして顔色も悪く,朝起きて部屋の障子にはたきを掛け,箒で塵を吐き出すと,もう,ぐったりして,あとは,一日一ぱい机の傍で寝たり起きたり何やら蠢動して,夕食をすますと,すぐ自分でさっさと蒲団を敷いて寝てしまう」.彼は「定職にも就かず,読書はしても別段その知識でもって著述などしようとする気配も見えず」,ただぼんやりしているだけである.正に「その消極性は言語に絶するものがある」が,「この男は,既に十数年来こんな情けない生活を続けている」のである.
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