Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
浦島太郎と認知症
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.880
発行日 2009年9月10日
Published Date 2009/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101599
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浦島太郎の伝説は,遠く『日本書記』や『丹後国風土記』にまで遡ることができるというが,考えてみれば不思議な話である.特に,物語の最後で,浦島が故郷の村に帰ってみると,村の様子はすっかり変わってしまい,知っている人は一人もいなかったという設定は,どのように考えたらいいのだろうか?
物語では,龍宮城で過ごした数日もしくは数年間がこの世では何百年にも相当していたとされているために,アインシュタインの相対性理論をもちだして,浦島太郎が光速に近い速度で宇宙旅行をしていたから時間の進み方が遅くなったというような説明もなされているようである.しかし,昭和40年に坪田譲治が発表した『ぼけた老人とぼけぬ老人』(『賢い孫と愚かな老人』所収,新潮社)のなかに,認知症になって故郷の村へ帰ろうとする老牧師のことを家族が浦島太郎になぞらえる場面があるように,浦島の故郷の村での体験には,認知症高齢者をモデルにしたと考えたほうが理解しやすい部分があるように思われる.
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