Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
太宰治の『盲人独笑』―偉大なる視覚障害者
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1462
発行日 2012年11月10日
Published Date 2012/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552105741
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昭和15年に発表された太宰治の『盲人独笑』(筑摩書房)は,江戸時代後期に活躍した盲目の箏曲家葛原勾当の日記に基づく作品である.太宰は,大正4年に出版された『葛原勾当日記』に「ただならぬ共感」を覚えて,この盲人の生涯に関わる短編を書いたという.
葛原勾当は文化9年,備後の国の生まれ.幼時より音律を好んだが,3歳の時に病によって失明してからはいよいよ琴に対する「盲執」を深めた.9歳から正式に琴三味線の修練を始め,11歳の時には既に近隣に師とすべき者がないという域にまで達した.その後京都に上って生田流松野検校の門に入り,文政9年,15歳の時に勾当の位階を許された.同年帰郷してからは,三備地方を巡遊して箏曲の教授や作曲をし,その研究と普及に50年余りの生涯を捧げて,明治15年に71歳で亡くなった.
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