教養講座 小説の話・22
高見順と太宰治
原 誠
pp.41-43
発行日 1958年7月15日
Published Date 1958/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910644
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
高見順の小説は,題名がこつています。出世作は昭和10年に発表した「故旧忘れ得べき」という中篇ですが,この長い詩の一節のような題名は,ロバート・ブロウニングの詩のなかからShould auld acquaintance be forgetというのを訳したものです。また高見順の文学的位置を決定づけた「如何なる星の下に」という小説は,その題名を明治中期のロマンステイスト高山樗牛の「わが袖の記」—明治30年6月—のなかからとつています。「如何なる星の下に生れけむ,われは世にも心よわき者なるかな。……」というのですが,これをみると大たい小説の内容もわかるような気がします。世にも心よわき者の物語だと憶測がつきます。その他「わが胸の底のここには」「今ひとたびの」「深淵」など,題名の拠つて来たるユエンを小説の書きはじめにはつきりさせたものが多いようです。
「如何なる星の下に」—昭和14年発表—の筋書から話をはじめていきましよう。
Copyright © 1958, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.