Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
『痴呆性老人の世界』―老いの美と生の極限への「まなざし」
宮本 省三
1
1高知医療学院
pp.611
発行日 1994年7月10日
Published Date 1994/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107656
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虚構の世界に生きる人達がいる.現実という時間に,過去という実存の世界を成立させて生きている人達がいる.忘却されることのない古い記憶と認識機能を失った知能とが交差する世界.映画「痴呆性老人の世界」は,そうした虚構の世界に生きる人達の人格を暖かく肯定しようとする「まなざし」に溢れている.
人間はこれまで,いろいろな文化や社会を築いてきた.そして,歴史を刻むために複雑怪奇な知的活動を強いられてきた.だが,虚飾を剥いでしまうと最後に残るのは生まれながらにして持っている心,情念,感情といった部分ではないだろうか.大脳皮質の前頭葉にすりこまれた知能が消え去り,人生の内なるスクラップブックとしての心が霧の中に入ってしまっても,魂の核は残り,人間の尊厳は保たれるのである.
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