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まえがき
老人の痴呆は,広い領域にわたる老人問題のうちでも,最も関心のもたれるテーマであろう.ことに老人の医療対策や治療体系を考える場合に,最も困難な問題を提起するのが,この老人の痴呆である.また,老人のリハビリテーションの領域でも,痴呆を合併する老人へのアプローチは,大きな臨床上の問題である4).
ところで,老人の痴呆についての学問的な業績や研究は,かなりの長い歴史をもっている.Richardら15)は,老人の痴呆についての短い歴史的展望をしている.すなわち,17世紀ごろまでは,痴呆の概念は,先天性精神薄弱と混同されていたようである.1816年になってEsquirolがはじめて痴呆を後天的な知能低下として,先天性の精神薄弱と区別した.
1897年に入って,Charcot,さらにKraepelinが,老人の痴呆のなかで動脈硬化性過程を老年痴呆の過程から分離している.そして両者の特性が,しばしば混同されていることを力説している.さらに20世紀の初期には,初老期痴呆であるAlzheimer病や限局性脳萎縮を呈するPick病が報告された.この同じころ(1910-14),Alzheimer,PerusiniおよびSimchowiczらによって,老年痴呆の病理学的知見がつぎつぎに報告され,老人斑,神経線維性変性および顆粒空胞変性の記載がされている.
このような老人の痴呆についての古典的な研究を基盤にして,近年になってさまざまの領域で研究がつづけられている.疫学的な研究,老人性形態学病変についての組織化学的研究,老年痴呆にみる染色体異常についての研究など,次第に老人にみる痴呆の成因があきらかにされつつある.
基礎的な研究と並行して,老人の痴呆に対する臨床的,個別的,さらに社会的な対策もたててゆかねばならない.
以下に,主として臨床的な観点から老人の痴呆についての問題点をのべてみたい.
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