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最近話題の「働き方改革」と比べれば認知度は低いが,経済産業省が「従業員の健康管理を経営的な視点で考え,戦略的に実践すること」と定義する「健康経営」というタームが注目されつつある.1980年代に米国の経営心理学者であるロバート・H・ローゼン氏が,「健康な従業員こそが収益性の高い会社を創る」と提唱した「ヘルシーカンパニー」という概念が基盤となっており,近年,健康管理プログラムへの投資は約3倍のリターンが得られ,医療費抑制効果に寄与することが報告されている.米国においては,健康企業化について “Workplace Wellness” という研究領域が確立されているという.わが国では,労働生産性を維持し,かつ健康寿命を延伸して国の活力を向上させる必要性が急務となっており,2014年度から経産省と東京証券取引所が共同し,上場企業を対象として健康経営の取り組みが優れた各業種のトップ企業を評価・選定する「健康経営銘柄」がつくられた.2016年度からは健康経営優良法人認定制度もスタートした.日本政策投資銀行は健康格付に基づいた特別金利での融資を行っている.
さて,「プレゼンティーズム」という労働関連指標をご存じだろうか? 病気などの理由で欠勤や休職,遅刻・早退することを表すアブセンティーズムに対し,何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し,業務遂行能力や労働生産性が低下している状態をプレゼンティーズムと呼び,アブセンティーズムよりも損失コストはさらに大きいようである.最新の知見として,首の不調や肩こりおよび腰痛は,有訴率が高いだけでなく,メンタルの不調とともにプレゼンティーズムに影響を与える大きな要因であることや,日本人の慢性腰痛有訴者のプレゼンティーズムと健康関連生活の質(QOL)が関連することが明らかになっている.先述した健康経営銘柄および健康経営優良法人の認定に関する,経産省の2017年度健康経営度調査(従業員の健康に関する取り組みについての調査)における健康課題の改善に向けた目標設定項目として,生活習慣病,メンタルヘルス,睡眠障害対策とともに,「肩こり,腰痛など筋骨格系の症状による従業員の生産性低下防止」という選択肢が盛り込まれた.
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