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はじめに
脳血管障害片麻痺者(以下,片麻痺者)は,長期の臥床安静や身体活動量の低下から全身持久性の低下が指摘されている9).また,全身持久性の低下は,日常生活動作能力の低下をもたらし,社会活動に影響を及ぼすとも報告されている8).したがって,片麻痺者の円滑なリハビリテーションおよび社会復帰において全身持久性の獲得は重要な課題と思われる.
一般に全身持久性の評価は,最大酸素摂取量が国際的に採用されている.しかし,片麻痺者の多くは,内科的リスクの問題や運動能力の低下から,その適用は困難である.また障害の程度に個人差がみられ,運動負荷方法の改変と配慮が必要になる.したがって片麻痺者の全身持久性評価は,各種の運動負荷法5,8,9,11,12)が採用され,統一された測定の実施には至っていない現状と思われる.
近年,心疾患など内科的リスクの高い患者の全身持久性評価,運動処方にAnaerobic Threshold(以下AT)が用いられ注目されてきた14).これはATが最大下の運動で測定できるため対象者への負担が少ないこと,またAT以下の運動が安全に行える運動強度の目安であるためである.ATは,1964年にWassermanら20)によって提唱された指標で,ガス交換の変化から乳酸の変化を知ろうとしたものである.彼のパラダイムによれば,運動強度の増加に伴いエネルギー供給系が無気的な代謝に依存し始め血中乳酸濃度が増加し,乳酸による酸化を緩衝するため重炭酸系の働きによりCO2,H+の増加が起こるが,この結果,呼吸中枢の興奮をきたし,VE,VCO2が急上昇する.したがって乳酸の上昇いわゆる乳酸性閾値(LT)と換気の亢進,換気性閾値(VT)が一致するというものである.しかし,最近では,このLTとVTが必ずしも一致しないという報告2,3)がみられ,またATの「無酸素」,「閾値」の存在に関しても議論が展開されている.
一方,宮下ら10)は,ATを最大乳酸定常と定義しVTとATの測定を行った結果,両者が一致したという報告をし,VTによってATが得られることの可能性を示唆した.したがって現状では,ATを運動が継続的にしかも楽に行える運動強度の上限値,すなわち最大乳酸定常と考え,ガス交換の変化から測定することは,被検者の負担度を考慮しても臨床では十分意義のある測定と思われる.しかし,これまで片麻痺者のATに関する報告はきわめて少なく5,16,17,19),ATが全身持久性の指標および運動処方の基準として採用されるまでには至っていない.
そこで本研究では,片麻痺者に対するAT測定の可能注,臨床応用について検討するため,まず,ほぼ同年齢層の片麻痺者と健常者のAT,VO2peakおよび予測最大酸素摂取量(以下,Pred. VO2max)を測定し,AT測定の妥当性および片麻痺者の有酸素作業能について検討した.さらに片麻痺者の身体トレーニングが,全身持久性に与える影響について検討を行った.
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