Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
愛することの治療的意味―人が素直になれる時
高橋 正雄
1
1東京大学医学部精神衛生・看護学教室
pp.439
発行日 1993年5月10日
Published Date 1993/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107367
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「暗夜行路」後編の冒頭には,自らの出生の秘密を知って悩んでいた主人公時任謙作が,後に妻になる直子と出会うことで,心理的にも安定する過程が描かれている.そこには,他者に好意を抱くということの治療的意味が示されているようで,精神療法の機序を考えるうえでも興味深い場面となっている.
謙作は,自分が祖父と母との間にできた不義の子であるという事実にショックを受け,その後「恐ろしくみじめな気持ちにたえず追いつめられ」,「安々とは息もつけない」状態になった.だが,東京から京都へ引っ越した彼は,まず古都の雰囲気に慰められる.「古い土地,古い寺,古い美術,それらに接することが,知らず彼をその時代にまで連れて行」き,謙作は「快癒期にある病人のような淡い快さと.静けさと,そして謙虚な心持ち」を味わった.
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