主張
独りを愛することと大勢を愛すること
pp.5
発行日 1953年5月10日
Published Date 1953/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200503
- 有料閲覧
- 文献概要
「自分の子供を愛するのは人の愛.人の子を愛するのはこれ神の愛」これは,かつて上映された英国の映画「青いヴェール」のうつし出しの最初に出て来るタイトルです.映画の筋書もよまないで突然にみた私は,一体何のことを言つているのかさつぱりわけがわかりませんでした.段々とストーリーの進むにつれわかりはじめ,最後にはつきりと其の意味をつかむことが出来ました.それは戦爭未亡人となつたうら若い女性の,夫の忘れ形見の独り子を,まだ産褥の床の中にある間に失い,全く生きる甲斐もなく自殺までやりかけたのを親切な職業紹介所の主任から慰め励まされ,死んだ自分の子供のつもりで人の子供を育てる仕事,即ち乳母の仕事をするようにすすめられ,赤ちやんを産んだために死亡した母親の代りになつて或実業家の坊やの乳母になつたのがきつかけで,70余才の生涯を終えるまでの間に,10数人の可愛い女の子や元気な男の子の世話をつとめ,どの子供にもどの子供にも,其の都度眞の親も及ばない程の愛情を注ぎ,別れる度に死ぬ程つらい思いを味い,遂に年老いてよるべない身を,偶然めぐり逢つたかつての育て子に救われ,其の愛情に今度はつつまれつつ尊い生涯を終える美しいストーリーでした.
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.