- 文献概要
ラジオからタンゴ「ママ,私戀人がほしいの」の甘いメロディが流れています。と,それをきいていた小学校4年生の長男が,「お母さん,戀人つてなあに?」とたずねるのです。「そうね,戀人つて好きな人のことよ」「そう,それぢや僕,戀人いっぱいあるよ」「ヘエー,だれなの?」私は笑いをこらえて問い返しました。「クラスに,男の子も女の子も,たくさんいるよ」そして,「お母さん戀人いる?」ときくのです。「お母さんにはいるわよ」考える余地もなくすぐそう答えると,「それぢや女学校の時いた?」私は返事につまってしまいましたが,やはり「いなかったわ」といってしまつたのでした。私達大人のいう戀人と,子供のいう戀人の意味のちがい—「いたわ」と答えた方がよかったのかしら?これから何年か先,この子はどんな戀人と語り合うのだろうかと,無心な寝顔をみながら,一寸たのしい空想にふけるのでした。以上は,最近の新聞の「あけくれ」という欄に「息子の戀人」と題してのつていた或る若い母親の寄稿です。私はこれをよんで,何てほほえましい,明るい,そして素直な家庭の雰囲気だろうと思わずにいられませんでした。この場合,お母さんは息子から二度戀人があるかと聞かれた時,「あったわ」と答えたらもつと素直でよかつたと思いました。
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