とびら
愛する女のように,未来を愛する人たち
宮本 省三
1
1高知医療学院リハビリテーション科
pp.591
発行日 1989年9月15日
Published Date 1989/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551102846
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大江健三郎の最新小説『人生の親戚』はYeats WBの「ウィリアム・ブレイクと想像力」のエピグラムから始まっている.《愛する女のように,未来を愛する人たちがいた》―このことばにたぐり寄せられるかのように,深い悲しみが透明な文体と抑制した視線で綴られてゆく.まり恵さんという華やかな魅力をたたえた女性は,彼女の二人の息子,精神薄弱児の兄と事故で脊髄損傷となった弟がともに自殺するという苦しみを背負って以来,神への傾斜を強くし,「回心」を求め,「私は生きた」という人間存在の破壊されえぬところにたどりつこうとする.『人生の親戚』の底に流れる深い悲しみは,まさに,この苦しみから「再生」へと向かう人間のidentityへの追想によるものである.
僕は,この小説を読み返すたびに共感し,理解しようと努め,回心に向かう女性の再生に感動していった.ここにあるのはまさにリハビリテーション思想の核であり,理学療法士のための物語であった.
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