Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Ⅰ.はじめに
―脳性麻痺の療育とIL運動―
重い障害をもつ脳性麻痺(以下CPという)児・者の地域社会への統合は,まことに古く,かつ新しい命題といえる.
それは,今から60年も前の1925年(大14)に故高木憲次博士が“脳性小児マヒには脳性治療を”という独自の構想のもとに「高木の脳性小児マヒ治療体系」を打出された時代からの療育上の命題であり,同時に,1962年にリハビリテーションの先進国アメリカで提起され,近年わが国でも大きな問題としてとりあげられているIL(Independent Living)運動に象徴される重度障害児・者自身に課せられた命題だからである.
前者は「療育の理念」(高木)に基づいて「時代の科学を総動員」して進める全人的・全児童的トータル・アプローチの中で,また,後者は地域社会において障害者自身が主体性をもって積極的にmainstreamしようとする活動の中で,それぞれに意図された終局的なゴールを意味していいといってよい.
国際障害者年(IYDP)の前年,1980年の6月,私は米国カリフォルニア州サンフランシスコの衛生都市バークレーにある自立活動センター(Center for Independent Living,CIL)を訪れる機会を得た1).自身が車椅子の重度障害者であるフィル・ドレーバー所長の案内で,この町の中で展開されている実際のIL活動を目のあたりにして,重度障害者同志の中にみなぎる社会自立への心意気とその活動エネルギー,そして淡々として支援する市民の姿勢に深い感銘を受けた.そしてこの時,私の脳裏をよぎったのは,これまで私たちが手がけてきた重度CP児・者が社会自立をねがいながらも現実の地域社会の中でさまざまな障壁にぶつかりつつあえいでいる苦衷に満ちた姿であり,これからの療育を進めていく上でのさまざまな反省の機会となった.
そもそもこのIL運動は,障害者みずからがこれまでの依存的な生活から脱却し,社会の一員として主体的・自主的な生活を営んでいこうとする障害者の人権運動,市民権運動の性格をもつもので,脱医療・セルフケア,脱施設という一見,過激的な権利闘争と捉えられている面も少なくない2).しかし,私自身は,重度障害者が自分の障害を乗り超えて,自らの手で社会自立の道を歩もうとする自律的な努力は大いに評価すべきであり,また,それを周囲がよく理解し積極的に援助していく活動に共感をもつ.
ここではIL運動について特に詳しくは触れないが,これらの活動のゴールが終極的には私たちのプログラムと共通しているものと理解する.以下,30年近く肢体不自由児療育事業に専念してきた立場から児の側からみた「CPの社会復帰」について2~3の問題を述べていくことにする.
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.