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はじめに
人間の巧緻性のある運動は,単純な運動が順次階層的に組み合わされて構成されており,この運動の階層性は系統発生的および個体発生的発達・成熟という型をとるが14),その内で手の果たす役割は大きい.
手は脳の出店として運動器官および感覚器官がうまく統合されて初めてその機能を発揮する.中枢神経系の障害,主として脳卒中,脳性小児麻痺等の痙性麻痺手を理解するためには正常手の機能を知る必要がある.把持機能という面から手の発達過程をみると,最初は両手活動,次に左右均等活動,次に一側優位活動が認められる.
新生児では両手は主として屈曲し顕著な把持反射がみられる.1~2カ月になると手は頻回に軽く開き,両手を動かす.漸次手と口との協調運動がおこり(4カ月終り),目的をもってつかみ(5カ月),手掌全体と母指で握る(6カ月終り).橈側でつかむようになり,片手でピンセット握り(10カ月終り),鉗子握り(11カ月終り)など行うようになり,一側優位活動へと発達する.しかし手は単に把持機能のみならず,他の多くの機能を有している.これは新生児の発達過程の中では,姿勢制御,持ち上げ機構,相動運動の3面から観察できる13).姿勢制御には外乱により空間位における位置が変化したり,身体間の位置関係が変化した時に元の状態を復する反応(静的反応)と,元の位置を保ち得ない時に新しい安定した姿勢へと能動的に変化しようとする反応(動的反応)があり,それぞれrighting reaction,parachute reactionがその代表例としてあげられ,その内で上肢の果たす役割は大きい.
筆者は35)は坐位における脳卒中患者の姿勢制御について調査したが,頸部と上腕のなす角は外乱による空間位における位置を示すもので,Br. Stage別にみると患側傾斜と健側傾斜では明らかにstage IVまでは差を認めるが,stageが進むにつれて差は消失している.両上腕のなす角は患側,健側傾斜の差はstage IIIまで認められるがstage VI以後はほとんど左右差を認めなかった.新生児の発達過程における持ち上げ機構は,重力に抗して立ち上がる基本動作を指す.on elbows(肘立ち),on hands(手掌立ち),all fours(四這い),kneeling(膝立ち),half kneeling(片膝立ち),standing(起立)が含まれ,これらの動作の発達過程での手の役割も重要である.
相動運動は,事物に接近し操作する,人としての高度の機能を発揮し,動く物体を追視する,物に手を出す,這って接地する,歩いて接近する等を総称している.細かな握持能力,巧緻性(スピード,正確さ)が要求される.この内での手の役割は大きい.
人間のなす諸活動は,運動,動作,行為に分類されており,運動面では手の集団運動,横の分離,縦の分離,伸展位での内外転が大切であり,動作面ではにぎり,つまみ,巧緻動作が要求され,行為面では心理的因子が関わりを持つ.
このように手の機能を観察すると,重力に抗して体重を支える支持,持ち上げ機構に手は関与し,立ち直り反射や平衡等に役立ち,安定性を得ている(stability).それと共に物の把持,つまみ動作機構に参加し(mobility),巧緻性を増し,社会的活動が可能となる(function).個体発生の発達過程が完成された後は,移動のため手を使用しなくてもよいが,中枢神経系障害で上下肢や体幹が障害されると移動のため手を使用せざるを得ないこともある.
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