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はじめに
脳障害などの上位運動ノイロン障害による運動麻痺では,末梢神経と筋の電気的興奮性は損なわれていないので,支配神経またはmotor pointを電気刺激して筋収縮を起し,関節運動を制御することが可能である.この方法は,動力装具のような大げさな仕掛けや駆動源を用いないで,麻痺肢の機能回復を図れるまことに合理的な手段であり,麻痺筋の機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation,以下FESと略)と呼ばれる.
FESの一般的な原理は,脳から筋への新しい迂回路を作ることである(図1).健常者が手足を動かそうという意志は大脳の運動領野で生じ,筋M1の収縮が起る.何らかの原因によってC1からM1への経路が障害されたとき,他の運動領野C2の活動によってM2を収縮させ,制御信号CSを取りだし,電子処理装置EPに入力する.EPからの出力によってM1を刺激すれば,M1は再び活動することができる.M2には日常生活動作における重要性が比較的低い筋が選ばれ,C1の代りのC2の活動は学習によって獲得される10,14,17).M2を複数にすれば,迂回路の数を増加することができ,麻痺肢の複雑な運動も可能である.
FESを最初に臨床応用したのはLibersonら(1961)であり,片麻痺の内反尖足を足底スイッチにより遊脚相に限って矯正した8).この方法はその後ユーゴスラビアのグループを中心に精力的に研究され,現在ではユーゴスラビアばかりでなく,欧米各国において製品化されている1,3,11,17).わが国には1970年代初期に,オランダ,フィリップ社の製品がサンプル輸入され,2,3の病院で試用が行われたようであるが,本格的な使用は行われずに終った4,19).
われわれはわが国におけるFESの普及を目指して,片麻痺内反尖足を矯正する電気刺激装置を試作し,臨床評価を行いつつある7,9).本論文では,われわれの経験を中心に,FESによる麻痺肢の機能回復について,これまでの研究成果と今後の展望について述べる.
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