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はじめに
現在の医学をもってしても,脳・脊髄の血管障害や外傷によって遮断されたヒトの中枢神経系運動伝導路を再接続し,その機能を回復させることは不可能とされている.しかし,そのような中枢性運動ニューロン障害では,末梢神経系に障害さえなければ,末梢神経・筋系は,その興奮性を保持しており,電気刺激を与えることによって筋を収縮させることができる.したがって,本来中枢に統御されているこれら末梢神経・筋系に,運動中枢の統御様式を模してプログラムした電気刺激を与えることにより,失われた運動機能を再建することが可能である.このような生体機能の再建を目的とした電気刺激を,一般的に,機能的電気刺激(Functional electrical stimulation: FES)とよんでいる.脳血管障害や脊髄損傷などによって麻痺した上肢・下肢を,FESによって機能再建しようとする試みは,すでに1960年代に始まっているが,近年特に有力な麻痺肢の機能再建法として,世界的に急速な発展を遂げてきている1,4~6,8,16),これは,材料工学の発達に伴う電極材やその絶縁被覆材の改良や,神経への外科的侵襲の許容範囲に対する理解の向上などに加えて,近年のコンピューター工学の著しい発展に大きく依存している.すなわち,体内に埋め込み可能な電極の開発によって,麻痺した筋を選択的に刺激できるようになったことのほかに,容量が大きく高速のマイクロコンピューターが開発され,多チャンネルの複雑な刺激データを容易に作成して,多数の筋を目的に応じて統御できるようになったことが,麻痺肢へのFESを大きく発展させた最大の原因といえよう.
本稿では,最近の埋め込み電極,ことに経皮的埋め込み電極による麻痺肢へのFESの研究状況について,我々の研究を中心として述べてみたい.
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