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はじめに
運動が,心身の健全な機能を維持し,疾患からの回復期を短繍することは,すでにギリシャのHippocratesの時代から認められていたという6).
したがって,運動を医学の治療面に応用しようとする努力は,西歴紀元前であるという.
腰痛が,整形外科疾患のうちでも,外来総数の20~30%を占め,重要な疾患であることはいうまでもないが,その原因も複雑多岐にわたり,一元的に取り扱うわけには行かない.
私共は,腰痛を大きく三つに分け,脊柱に関連した整形外科の対象となる腰痛,内臓疾患に起因する関連痛それに精神的要因の強い腰痛の三本柱を考え,これらがからみあった上に腰痛はなり立っていると考えている.
腰痛が慢性化すれば,当然精神的にも「うつ」の状態になるし,内臓諸器管の働きも低下する.これらが運動不足に結びついたり,不良姿勢と結びついて悪循環の鎖となりうる.
腰痛は一般的に人類が二本足で立ち,歩行するための宿命的疾患といわれているが,私共の直立位の姿勢は,未だ完成されたものではなく,危いバランスの上に辛うじて保たれているのが実情で,我々の姿勢は未だ進化の途上にあるため,どのような方向に進むかも分っていない.
文化生活といわれる生活形態自身が人類に一定の姿勢を強制したり,以前とった姿勢もとらなくなり,また歩く機会を少くし,頭でっかちな運動不足の人間を造りあげているかも知れない.
最近の腰痛の傾向をみると,患者年齢の若年化,不良姿勢の関与する筋・筋膜性腰痛の増加,就職後6カ月内外で腰痛を訴えるものの増加など,社会的要因を背景にもつ腰痛が多い点が特徴と思われる.他方,平均寿命の延長による老齢化による変形性脊椎症や老人性骨粗鬆症,あるいはがんの脊椎転移などによる腰痛も少くない.
腰痛体操に関しては,Williams P.C. による「腰仙部疾患の保存的療法」なる論文で,腰仙角を減少させるために工夫した姿勢体操postural exerciseが有名であり,Williams' exerciseと一般に腰痛体操の代名詞の如く取り扱われている.著者も昭和38年以来,腰痛体操に関心を持ち,その普及に些かの努力をなして来たが,腰痛の治療と予防にとって有力な武器であるが,これが万能であると考えることも早計であるという考えをもっている.多くの治療法の中の一つとして適宜応用すればその効果が期待出来ることは事実である.
更に腰痛体操をはじめ治療体操,運動療法の一般的な利点として,患者自ら自己の健康をまもるという態度,積極的なとりくみ,動機づけに有意義であるという点である.この点も私共の経験から見逃せない点である.以下私共の行って来た腰痛体操について解説を試みたい.
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