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はじめに
四肢麻痺者の急激な増加の傾向は世界共通の現象である.我国では現在四肢麻痺者の社会復帰は,幸いに介助者が得られた場合にのみ家庭復帰という形で実現しつつあることは著者ら1),博田ら2)などの報告の通りであろう.
また四肢麻痺者の職業的自立については,従来我国では極めて少ないのであって,C4C5者については特殊技能保持者,知的労働者の一部以外には多くの困難があることは理解されるが,C6以下についても職業的自立援助に対する施策に全く欠けているのが,我国の現状であろう.
我国では家庭復帰が実現できれば,たとえ生産活動はしていなくても,幸いであるという考えが支配しているように思われる.
まして四肢麻痺者の就労,生産活動従事ということは,無理であるとのあきらめのムードが支配している.欧米先進国で実現していることがなぜ我国でできないのであろうか.
四肢麻痺者は身体的能力,なかんずく日常生活動作遂行能力が上位レベル程低く,介助(主として人的介助)はこれと表裏の関係にあることは緒方ら3)の報告の通りである.
すでに医学的,身体的にプラトーに達した四肢麻痺者の家庭復帰家庭内自立,施設内自立,もしなし得るなら職業的自立を助ける手段の一つとしてリハビリテーション工学的援助が必要であり急務であることは著者ら4~6)が再三主張してきたところである.
現在の医学水準をもってしても,すでに失ったものをとりもどすことが不可能である以上,工学的援助も含めた幅広い対策でこれを救済することに主力を注がねばならないと考える
総合せき損センターでは九州芸術工科大学古賀研究室の協力のもとに,四肢麻痺者の日常生活動作遂行能力向上と,介助者の負担軽減をエ学的援助によって果たすことを,まず当初の目標として研究を進めているのである.
このためには,四肢麻痺者にいかなる工学的援助を行えばよいかの人間工学的基礎資料を得ることが必要となる.そのために家庭復帰を実現している四肢麻痺者の実態として,現在,在宅四肢麻痺者が,どのような生活空間で,どのような生活機器を,どのような配置で使用しているのかを調査し,四肢麻痺者が必要とする居住空間,装置化空間,機器設備開発を進める必要があると考え,本調査を実施したのである.
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