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はじめに
本特集の最後に当るので,すでに他の著者によって触れられていることと思うが,社会復帰医療施設での活動報告に入る前に,二,三の問題について私なりに整理しでおきたい.
まず,精神科リハビリテーションの領域で,なぜ病院以外に社会復帰医療施設が必要とされたかであるが,その主な理由は次の諸点に要約されるだろう.第一は,病院の枠内の治療とリハビリテーション(以下,リハビリと省略)だけでは,実社会の生活に耐えうるだけの生活能力を回復することが困難な患者が少なからずいること,第二は,いったん社会復帰できたようにみえても,社会生活上のいろいろな原因によって動揺しやすく,しばしば再発・再入院を繰返している例が,これまた少なくなく,外来治療だけでは支えきれないことである.第三に,病院外のリハビリ活動を担うべき地域側の態勢が弱体であることや,態勢が整ってもなお,病院――地域間の格差が大きすぎることなども付け加えておくべきだろう.
精神科リハビリの特徴を一言でいうなら,治療とリハビリとを,その比重は時期によって違うにせよ,常に重複して併せ行っていかなければならないことであろう.前述の社会復帰医療施設を必要とする理由の第一に対する対応は,他領域のリハビリとの共通点といえる.社会生活能力の回復を狙うことは,いわば広義の機能回復訓練ともいえるからである,しかし,理由の第ニへの対応については,他領域のリハビリとはいささか異なる.第一,半数再発するようでは,障害が固定しているなどとはいえないのではないか,と指摘されそうだが,病院内に安住している限り再発は少なく,社会に出ると不安定になるのだから,その対応にしても,社会生活場面での状況因子や心理的葛藤などへの配慮を抜きにしては考えられないし,薬物療法を中心とした狭義の治療的対応も欠かせないからである.
ところで,上記のようにして経過が慢性化するにつれて,再発のたびに本人の異常な言動に悩まされた家族との関係が悪くなったり,長期入院の間に本人を除いた家族構成が安定してしまったりして,病状が回復しているにもかかわらず,家庭に戻れない人がふえてくるのも,精神科の特徴のひとつといえるだろう.こうなると,精神科リハビリは単なる医療的なかかわりだけでは済まなくなる.他領域にも多かれ少なかれ必要なことだろうが,いわゆる機能回復訓練的な側面の他に,生活の場としての宿舎や生活の手段としての職場の提供から,福祉作業所に相当する保護作業所の設営,さらには生活保護に至るまでの福祉的なかかわりが必要になってくる.これはリハビリを必要とする精神障害者の多くが,同時に生活障害者でもあるからに他ならない.
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