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はじめに
人類が初めて電気刺激を疼痛の治療として用いた例が,ローマ時代に書かれた書物に記載されている18).当時の人は,頭痛や痛風の治療として,断頭したでんきなまずを局所にあてたといわれている.
実際の電気刺激装置を用いた例は,1840年代に入ってからである.しかし,まだこの時代には,その効果の根拠を説明するものはいなかった.
電気刺激の除痛効果に対し,理論的な根拠を与えたのは,1965年のMelzackとWallが書いたgate control theoryが初めてである12,13).そして電気刺激療法は難治性の慢性痛の治療に行き詰まっていた臨床家の興味を著しく惹く事となった.しかしながら,複雑な痛みの現象に対し,なぜ電気刺激が効果があるかをgate control theoryだけで説明できるものではないが,以来,経皮的電気刺激,あるいは体内埋め込み電極の開発の引き金となった事は否定できない.
このgate control theoryを簡単に説明すると,図1に示される様に,脊髄の後角には膠様質(substantia gelatinosa)があり,末梢から来るインパルス(神経衝動)を一旦うけ,これを変化させてT細胞に伝える.T細胞での興奮は上行路を介して中枢に伝えられる.
末梢での刺激は,太い線維(large fiber),あるいは細い線維(small fiber)によって脊髄に伝えられる.前者は膠様質を介して抑制的に働き,後者は促進的な効果がある.
電気刺激は主に,太い線維により,また有害刺激(noxious stimulus)は細い線維によって伝えられる.そして,T細胞より中枢へ伝えられるインパルスの量は,太い線維と細い線維からの入力の強さの比に左右され,更に中枢からの遠心性のインパルスによっても影響をうける.
以上の様に,電気刺激は脊髄での痛みを伝える扉を閉じる様に働き,有害刺激は逆に,開く様に働くとされている.これがgate control theoryといわれるゆえんである.
一方,最近になってHughesらによって,モルモット,ラットなどの動物からenkephalinsあるいは,endorphinsと呼ばれるモルヒネ様物質が抽出されるにあたり8),電気刺激の除痛効果との関係が,新たに論議される様になってきたが,まだ推論の域をでない.
1967年WallはSweetと共に8例の慢性痛の患者に対し,経皮的電気刺激を行った.O.1msecの矩形波を用い,1秒間100Hzの割合で末梢神経または脊髄根部に刺激を行った.8例中4例には,刺激終了後30分以上の除痛効果を認め,残り4例は数分間の効果があったと報告している27).そして現在までに,経皮的電気刺激装置を用いて数々の臨床報告がある4,5,11,25).
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