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はじめに
関節の構成体を大別すると骨,軟骨,関節包,靱帯,粘液包そして筋肉となろう.関節が痛むとは,それぞれが個々に痛みを生じる場合と,いくつかのものが重なって痛かったり,そして個々の要素は,ほぼ生理的であるが,全体として十分な関節機能が果たせず痛みが出たりする場合がある.
骨には骨膜,内骨膜,骨皮質として骨髄内に求心性神経が存在する.骨膜には豊富に神経が分布しており,骨内質の表面で神経網を形成している.また,Havers管内の血管には神経が随伴しており,骨髄内にもミエリン鞘を持った多数の神経が存在する.
関節包は内側の滑膜部分と外側の線維関節包に分けられる.内側の滑膜部分は疎な結合組織よりなり,血管が豊富であり,blood-synovialbarrierにより滑液の分泌と吸収を行っている.一方,外側線維関節包は密なコラーゲン線維より成り,血管が少なく血夜の供給に乏しく,神経分布が豊富なのが特徴的である.これが関節痛に主役的役割を果たしている.これらの神経は機械的(物理的)に又は化学的に刺激されて痛みを生じる.
動いている関節において主役を果たす筋肉は,筋収縮の持続により起こる筋肉の貧血,そして筋運動により産生された乳酸により組織内のpHが低下して筋肉痛が生じると考えられている.他にも筋肉痛が起こる機序についての説明がある.①筋肉の好気性収縮により,生化学的に微小血管の活動,つまり微小循環系の拡張がおこり,発痛物質を遊離させる.②同時に,嫌気性筋収縮では乳酸等の産生により組織内pHを低下させて,発痛物質破壊酵素の活動を抑制する.③この時筋肉の血流が十分でないと,つまり筋肉の微小循環系の不全が起こっていると血液の還流により発痛物質の稀釈,洗浄,そして流出が出来なくなり,痛みが出現してくる.
関節の痛みはこのように,大部分は線維関節包に分布している痛覚線維により伝達される.痛覚神経線維一部は靱帯にも存在する.関節包の痛みは,関節包をつまんだり,ひねったりすると強く感じる.そして,酵素欠乏時にはその痛みはより感じやすい.
具体的には,変形性関節症では,対向している関節軟骨の磨滅か破壊により関節面の不適合が生じ,この為に関節包か靱帯に非生理的に外力が加わる結果となる.また,関節包や靭帯も加齢性変化により弾力が低下しており,これらの変化が痛みを出現させ,そして助長させる.また,関節炎では炎症が骨膜を越えて線維関節包にまで及んで痛みが出る.
このように関節痛のような深部痛の適刺激は機械的刺激そして化学的刺激である.深部痛は疼痛の局在性では表在痛よりかなり劣る.しかし,深部痛も分節的な拡がりをすることもあり,その傾向は痛みが著しい時ほど強い.また,深部痛は表在痛と密接に関連を持っている.関節のどの構成部分の原因により関節痛が生じたとしても関節を動かす筋肉の力が相対的または絶対的に減少するであろうことは容易に想像がつく.
この論文では,筋肉が比較的計測しやすい膝関節を例として,関節の痛みと筋肉について述べてみよう.
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