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はじめに
スポーツは社会活動の一部である.したがって,リハビリテーションを広義に捉えたとき,スポーツがその手段や目的に含まれることはいうまでもない.そして一般社会の人びとにとってスポーツが心身の発達に寄与していると同様,障害者にとっても心理的な効果が考えられることは当然である.ただ,すでに健康な人たちでさえ,スポーツの種類や程度を問わず望ましい効果だけが期待されるとは限らないように,障害者においてもスポーツによる効用を図るには,それなりの注意が必要となるであろう.
効果―effect―という言葉は必ずしも効用―efficacy―だけを意味してはいない.本来の目的とかけ離れた悪影響を考慮しないで,やみくもにスポーツを奨励するわけにもいかない.健常者でも,極端な疲労や過度の緊張が持続することによってスポーツが一転有害なものとなりうる.学習や鍛錬のためには,通常以上の疲労や緊張に耐えられるようにすることが要求されるが,それにも自から段階と限界がある.ましてや,障害者の場合,心身に合わせた段階的な努力計画が一層強調されるべきことは明らかである.障害者リハビリテーションの過程や目標に表われるスポーツに医学的指示が求められる所以である.
障害者を健常者より一歩退いた存在として般化することは誤りであるが,これはスポーツの世界においても同様である.しかし,強さ,速さ,正確さ,団結などによる華麗な記録や勝負に目を奮われている人びとには,すでに力や美の2つながらに後発を余儀なくさせられている障害者グループが,単に健常者の打ち建てた栄光を追っている者としてしか映らないかもしれない.果たしてそのような不変のゴールがあるであろうか.どんなに人を驚かす結果を得たスポーツマンでも,その成績に不満を抱く限りその人にとっては不成功であるといわれているとおり,目標は自分自身である.その点,障害者におけるスポーツの意義と何ら変わりはない筈である.また,国際的選手のレベルと一般社会人のそれとを比べれば,一般社会人と障害者との差ぐらい離れているということにも心を致すべきである.スポーツは決して一部の人たちのものではないし,また障害者との間に一線を画すべきものでもない.むしろ障害者に対する効用に至っては,理学療法,作業療法,心理療法などに比肩すべきほどの意義を認めざるを得ない.
それにもかかわらず,障害者に対するスポーツの心理的効果が健常者におけるそれと比べて著しく疎んぜられてきたことはまことに残念である.この機会にこれまで語られることの多かった健常者における効用を振り返り,障害者における意義を検討してみたい.
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