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はじめに
私達は過去数年前より筋の作動状態より運動の円滑性を客観的に知る方法についての検討を試みてきた.今,筋の作動状態について考えて見ると,まず運動をおこす筋の作用は,原則として筋の起始部と停止部が相近接する牽引作用である近接の法則と,起始部と停止部とが同一面上に位置し,筋線維のたどるいかなる捻れも,螺線状の経路も消失,あるいは減少させる傾向を持つ捻転の法則の二つの法則があり,このことがらを筋の収縮の形の法則と呼んでいる.そして,筋の収縮は単独筋のみに生ずるのではなく,筋のグループとしておこるものであり,このグループ活動はある部分,部分の筋の働きとして,主働筋,拮抗筋,協同筋,固定筋の4種の作用の中の一つの役目を果たしているのである.
ある筋が決められた運動の遂行にあたって,その原動力としての作用をする場合を主働運動と呼ぴ,ある筋が主働筋に対して,その主働運動に相反する作用をする場合を拮抗運動と呼んでいる.また,ある筋が主働運動の一部でない運動を妨げる作用をした場合に主働筋に対する協同運動という.重力の作用あるいは重力の作用なしに,ある筋が筋群の中で固定的に働くときに固定筋となって,他の筋群によって引きおこされる運動を中和する.筋収縮が上記の運動を引きおこし,その作用の関連性が一つの目的を果たすためにはバランスのとれた働きが必要であり,円滑な動作としての状態を示すものである.これら4グループの筋の作用は,正常人においては自動的に調整が行われており,この自動的調整はサイバネティック調整と呼ばれている.この調整について陽性フィードバックと陰性フィードバックという言葉が使われているが,コントロールされたものから機械的組織のコントロール部位に対して信号を返送する場合に用いられる言葉で,この信号により作用の増加をもたらす場合が陽性フィードバックであり,逆に作用を減弱させる場合が陰性フィードバックである.陰性フィードバックは運動性を一定の速度に保つようにするような安定状態にする働きを持ち,陽性フィードバックは加速やあるいは減速というような持続的な運動状態にするものである.このように筋の作用が一方では主動筋に対して補助的に,他方では反対に妨害するような作用をすることをグループ作用と呼び,筋収縮に関しての質的面を表現するものと解すべきである.
この考え方と別に一度に共同して同一目的のために作用する筋,あるいは筋線維の数で示す筋活動を表現する場合は集団活動という言葉が使われる.この集団活動は量的な概念を表現するものであり,グループ作用と区別して使われている.現在は集団活動に関与する筋の活動状態は分析できるが,実際の力の大きさを表現する方法が筋電図学的には不可能な状態にある.しかし,グループ作用としての作用状態の表示についてある程度の指針が得られるのではないかと考えた一つの方法が,随意運動時における屈筋群と伸筋群の筋活動電流の放電位の収積比率を指数としての判定方法である.この指数を求め,正常人と脳性麻痺児の上肢の運動についての分析について,その概略を述べることにする.
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