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はじめに
この小文の目的は,片麻痺上肢の運動分析に関する研究が従来どこまで進んでいるかを紹介することにある.
しかしながら,この方面の研究で「分析的」といい得るほどのものは非常に少ない.多くは「観察」段階のものである.この停滞の原因はおそらく,中枢性障害特有の運動異常の複雑さと,さらには上肢動作そのものの複雑多様性によるものであろう.ひとの正常歩行の分析はかなり進んでいるから,片麻痺歩行の研究はそれを土台にすることができる.上肢の場合は,この種の資料集積を全く欠いているといっていいほどなのである.
脳卒中の運動障害は,これをどのような「視点」でとらえるかがまず問題であった.多くの努力がこのために費された.多数の「評価」様式が試みられ,発表されつづけてきたのは,そのあらわれとみることができる.
片麻痺の運動障害を,関節ごとの動きや力ではなく,「運動パターン」の形式においてとらえるべきだとするのは,今日のほぼ一致した見解である.この面で果したSigne Brunnstromの功績は大きい.今日,片麻痺の共同運動パターンについて知らない者はなく,その回復度を示すBrunnstromのStageは,ほとんど共通語の価値を持つようになっている(とくにわが国では).
しかし,当然のことながら,運動のパターンは共同運動synergiesの成立と分解という尺度以外の見地からも研究しうるものである.また,片麻痺患者の動作の遅さ,反復性のわるさ,保持の不良なども,当然分析の対象になるぺきものである.これらの点を含め,いままでに何が明らかにされてきたかを次にまとめてみることにする.記述的な部分が多く客観的データが少ないのは冒頭の事情によるもので,致し方のないことである.
上肢の運動は(とくに手はその典型であるが),物体との対応をぬきには考えられない部分がある.そのため,ここで扱う内容も運動よりは動作に近づくことが少なくない.ただ主な関心はあくまでも,その中での運動の起こり方にある.したがって,動作の成果を問題にする分析法(職能評価やADL評価の方法)はここでは対象外とする.
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