巻頭言
リハビリテーションの主役は障害者
小川 孟
1
1社会福祉法人日本キリスト教奉仕団
pp.603-604
発行日 1976年8月10日
Published Date 1976/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103600
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もう大分前のことになるが,私が前の施設にいたころ,入所している人たちに「リハビリテーションの主役は君たち身体障害者なのだ」ということを強調して積極的な意志表示と行動を促したことがある.こんなことは当り前のことであり,別にリハビリテーションの哲学とか理念とかいうものではないが,そのときはそういわざるを得ないそれなりの現実的背景があったのである.
つまり,リハビリテーションの過程を一つの劇とすれば,その劇を構成するに先立って必要な脚本が満足にでき上がっていなかった.そして大抵の場合,その脚本にはエピローグがなかった.これでは余程主役がしっかりと自分で劇を作りながら進めていく努力と覚悟がないと幕をあけてもうまくいかないということがあった.また,主役をとりまく脇役や演出家,舞台監督,装置,照明,音楽,衣裳,効果など,それぞれの専門家が,ともすればかんじんの主役抜きで,いまはやりの言葉でいえば“はしゃいで”いる観もあり,一見して観客からは誰がリハビリテーション劇の主役かわからないままに,何かリハビリテーションといういままでにない素晴らしい演し物を見せてもらえるものと,ある種の期待と興奮を感じていた.その中で,自分が何を演じるのか,その題名さえもよくわかっていないのが主役である身体障害者自身ではないかという疑問を持ったのである.私たちリハビリテーションにたずさわる者はあくまで脇役であり,裏方である.だから身体障害者であるあなたたちが自信を持って主役として振舞ってほしいという趣旨のことをいったのである.
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