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はじめに
失明や急激な視機能低下が人の心理面に与える影響は大きい.視覚障害が心理面に与える影響は,二つに分けることができる.一つは,受傷した個人(心理)に与える影響であり,もう一つは,他者(家族や世間)に与える影響である.
視覚障害が個人に与える影響は,元気をなくしてしまう,習慣的動作の喪失によるとまどいを生じる,自信をなくしてしまう,仕事を失うことにより生活を再建するための力をも失ってしまうことが挙げられる.以上の問題をこの順番で回復できるよう援助することが課題である.
これらの問題解決に向けた援助を従来の方法に関連づけて整理すると,元気の回復に対しては,フロイトの悲嘆の回復の考え方(「悲哀の仕事」)による方法がとられてきた1).この方法では失明後の悲嘆を心理的な正常反応ととらえた2)が,この方法によるうつへの対処には問題が指摘されている3).習慣的動作の喪失に対する援助(慣れや自覚の促進)に対しては,「社会適応訓練」が行われてきた.失明前に獲得された基本動作をベースとし,歩行訓練などによって新たな動作を加え,行動様式を再構成する方法である4).これに加えて,新たな習慣的動作を獲得するための援助が必要である.自信を取り戻すことに対しては,“心の型”(脳内に再現された活動)をつくりなおす援助が有効である.なぜなら“心の型”が失明によって損傷されたからである.生活の再建に対しては,就労支援による方法が行われてきた.わが国では伝統的な職業であるあん摩・マッサージ・指圧師,はり師,きゅう師へ向けた援助が中心である5).
一方,心の援助は従来の障害受容が一般的である(後述).障害受容は総じて喪失感を援助しようとするものである.なお,古典的名著とされる『失明』でCarroll6)は,視覚障害による20の喪失を挙げ,その回復に向けた援助が重要と述べている.
視覚障害が他者に与える影響とは,受傷によって家族や世間からの排除(多くは例えば家庭内別居などの見えざる排除)を意味する.中途視覚障害者の支援に取り組む下堂薗ら7)は,仲間との絆が社会復帰の原動力になると述べている.関8)は視覚障害者への援助として仲間同士の支え合いの有効性を主張している.筆者らはセルフヘルプ・グループへの参加(とくにピア・サポート)は,“一時避難場所”の効果にとどまるものではなく,心の回復の援助に有効であると考えている(後述).
筆者らは,従来の障害受容が,視覚障害によって起こる心理的問題の側面に力点を置くものであったととらえている.その方法論は具体性を欠くものとなっており,その治療効果には疑問をもたざるを得ない.そこで本稿では,援助方法のなかでも代表的なひとつである障害受容を取り上げる.一方で援助本来の目的である治療的側面に力点を置いたアプローチもある.そのなかで近年注目されているピア・サポートによる方法について詳しく述べる.
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