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はじめに
いま,突然中途失明者になったときの状態を想像してみよう.中途失明者は,その障害のあまりの重大さに対処すべき方策を失い,社会に適応していく上で,心理的に多くの困難な場面に遭遇する.また,当面する自分の家庭,職業,結婚その他諸々の事は,再検討を迫られる.今までに抱いていた将来に対する希望,自信,誇りなどすべては消え去り,生きていく希望も失い,まさに暗黒の世界をさまよう.以上のような心理的苦悩は,中途失明者であれば程度の差こそあれ,ほとんどすべての人が体験する.
このような状態に陥っている中途失明者のリハビリテーションについて,Thomas J.Carrolは,次のように述べている.“さまざまな異なった環境の中で,自分ではどうすることもできず困惑し,情緒的にも障害を起こし,他人に依存して生きて行かねばならない状態の中途失明者が自己のハンディキャップについて正しく理解し,失明という状況にとって必要な技術,および自分の情緒と環境に対する新しい適応力を獲得していく過程である,”と定義している.
視覚障害者が,職業を身につけ社会に復帰していくには,身体的,社会的,心理的,職業的リハビリテーションの4つの過程があり,これらはいずれも無視することはできない.視覚障害者のリハビリテーションにおける到達目標は,たとえその障害程度が重度であろうと職業的に自立することにある.
リハビリテーションを進めていくうえで,その効果をあげるか否かの鍵は,視覚障害者自身にある.施設,設備が完備され,そこで働く専門家がいかに配置されていようとも,リハビリテーションを受ける本人が,その気にならなければ如何ともしがたい.すなわち,社会復帰しようとする意欲が重要であり,訓練にあたる専門家は,このことを無視して,視覚障害者のリハビリテーションを実施することはできない.
以下,主として中途失明者のリハビリテーション過程における,心理的諸問題について考察する.
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