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はじめに
厚生省の1987年度身体障害者実態調査によれば,18歳以上の在宅視覚障害者は全国で30万7千人おり,そのうち3万8千人が身体障害者手帳1,2級に該当する重度障害者である.また,その年齢構成を見ると60歳以上が64.3パーセントを占めており,高齢化がめだっている註1).
このように「視覚障害者」といっても障害の程度,年齢,失明後の年月,リハビリテーション訓練の有無などによって,具体的に現れる生活上の困難は異なってくる.また「生活上の困難」といっても,個人のおかれた状況がさまざまであるため,これも一言で言い表すことは難しい.
しかし,視覚障害者の日常生活を観察すると,このような個人差を越えたところに,次の3つの共通な問題を見いだすことができる.
第1は,視覚障害から直接的に生ずる情報障害の問題である.視覚障害によって,とりわけ文字化された情報の取り扱いが困難となるからである.この問題は,さらに情報の入手と他者への伝達という2つの側面に分けることができる.
第2は,歩行ないし移動の問題である.視覚障害があることによって,周囲の各種の情報が十分入手できないことから,安全に歩行・移動することが困難となるからである.したがって,この問題は情報障害の問題としての側面をも合わせもっているといえる.
第3は,こうした各種問題を含む生活の基盤に関する問題である.つまり生活の基盤となる所得をどのように保障するかの問題である.これは就労可能な視覚障害者にとっては就業の問題としての側面が強く,高齢などの理由によって就労不可能なものにとっては福祉制度ないし福祉サービスの問題としての側面が強い.
本稿では,これら3つの共通な問題について日常生活における具体的事例をあげながら検討していくことにする.
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