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「ハビリテーションクリニック」という名前の発達障害専門の医院を2011年の5月に開設した.“児童精神科”と“リハビリテーション科”を組み合わせ,発達障害の精神・運動系の全般をカバーできる体制にした.このような診療構造は,民間の医院としては珍しいと医療コンサルタントや金融機関の担当者から聞かされた.裏を返せば,経営的には手をつけたがらない組み合わせということかもしれない.発達障害の診療ができる医療機関はどこも受診希望者で溢れ,予約待機期間が何か月にも及ぶ事態であることはもう何年も前から耳にしている.肢体不自由児の診療を担ってきた療育医療機関も受診の半分以上を発達障害が占めるようになってきた.しかし,採算部門を備えている医療機関か,公的な経営的保証がなければ,発達障害診療に腰を据えるには,まだまだ困難な時代だということを医院経営に従事してみると改めて実感する.発達障害の医療を充実させるのであれば,診療報酬の見直しは必須事項だというのが多くの医療関係者の本音であろう.
自分の医院も毎日何件かの初診申し込みがあり,例に漏れず開院して半年で初診待機は1か月になっている.受診者の年齢に制限を設けないでいると,還暦前の受診者から自身の発達診断を求められることもあった.ここにいると,診断されずに社会に抱えられてきた発達障害の人たちや,発達障害という概念が曖昧な時代に,自分自身の特性に翻弄され傷つきながら暮らしてきた当事者らがいるという現実を垣間見ることができる.発達障害の診療は,乳幼児期に重きが置かれているが,適切な支援を受けずに年齢を重ねてこざるを得なかった人たちへの落とし前をこの社会はまだつけていないし,発達障害が人の生涯にかかわる支援を必要とするものであるという認識は,まだまだ現実味を伴って施策には反映されていない.医療機関も乳幼児期以外のライフステージにかかわる地域資源も,そして人材も,どれも全く足りていない.
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